タイ住宅市場、新たな成長サイクルの主役は中古住宅へ
バンコクポストの記事と私見を交えて下記にご案内いたします。
タイの住宅市場はすでに底を打った可能性があります。しかし、今後の市場回復はこれまでのサイクルとは異なるものになるとみられています。
住宅価格の購入しやすさ、いわゆる「アフォーダビリティ」の問題が住宅購入者の行動を変化させる中、今後は中古住宅が住宅市場の成長をけん引する中心的な存在になると予想されています。
独立系の住宅・都市開発アナリストであり、Housing Finance Associationのマネージャーを務めるVichai Viratkapan氏によると、住宅市場は安定化し始めているものの、回復は緩やかなものとなり、新規開発プロジェクトではなく中古住宅が市場をけん引する見通しです。
Vichai氏は次のように述べています。
「市場は回復し始めていますが、すべての市場セグメントが同じペースで回復するわけではありません。次の成長サイクルでは、中古住宅が主要なけん引役となるでしょう」
→新築コンドミニアムの販売数は2017年、2018年が最盛期でした。それ以前のタイではコンドミニアムの供給数がそれほど多くないこともありコンドミニアムの中古物件が出回ることも少なかったのが要因の一つだと思われます。
現在の市場環境に適している中古住宅
Vichai氏によると、中古住宅は新築住宅より価格が低いこと、すでに生活環境が整ったエリアに立地していること、すぐに入居できることなどから、購買力が依然として低迷している現在の市場環境に適しています。
経済の先行きに対する不透明感、高水準の家計債務、住宅ローン審査の厳格化などによって住宅購入能力が制限される中、各世帯は以前にも増して現実的な住宅購入の判断をするようになっています。
住宅購入の判断においては、投機目的の不動産投資や新規プロジェクトであることよりも、**「自分の収入や資産で無理なく購入できるかどうか」**が重要視されるようになっています。
その結果、購入希望者は自身の経済状況に適した住宅を選ぶ傾向を強めています。
→10年前の新築物件価格と現在の新築物件価格には大きな差があります。現在売買市況は芳しくないですが、それでも新築物件価格はそれほど下がることもなく中古と新築では、隣り合うような同じ立地でも倍以上価格の開きがあることもございます。
約20年をかけて新築住宅と中古住宅の立場が逆転
こうした住宅市場の構造変化は、実は20年近く前から徐々に進んできました。
2007年以前、住宅の所有権移転件数に占める割合は、
- 中古住宅:48%
- 新築住宅:52%
で、新築住宅が中古住宅を上回っていました。
取引金額ベースでは、その差はさらに大きく、
- 中古住宅:38%
- 新築住宅:62%
となっていました。
しかし、現在ではこの関係が逆転しています。
2026年第1四半期には、中古住宅が住宅所有権移転件数全体の67%を占め、新築住宅はわずか33%となりました。
取引金額ベースでも両者の差は大幅に縮小しています。
- 中古住宅:48%
- 新築住宅:52%
中古住宅の取引金額シェアが48%まで拡大していることは、比較的価格の高い中古住宅についても需要が強まっていることを示しています。
Vichai氏は、この数字について、中古住宅市場がもはや低所得層だけを対象とした市場ではなく、複数の価格帯において一般的な住宅購入の選択肢になっていることを示していると指摘しています。
→新築志向からの脱却はかなり進んでいるように思います。煌びやかなショールームに舞い上がって成約することから現実的な問題にフォーカスして住宅選びされるようになっているかと思います。
コロナ禍を経て「実物を確認してから購入」が重視されるように
中古住宅の人気が高まっている背景の一つには、コロナ禍以降の住宅購入者の意識の変化があります。
購入希望者は、実際に完成した住宅を見て、部屋そのものだけでなく、周辺環境や共用施設などを確認した上で購入を判断できる物件を以前より好むようになっています。
Vichai氏は次のように説明しています。
「完成前に販売されるプロジェクトとは異なり、完成済み住宅であれば建設に伴うリスクがありません。また、所有権移転前に住宅ローンの承認を得ることができるため、住宅購入手続き全体の不確実性を軽減できます」
住宅ローンの否決率は約70%から45%へ改善
住宅ローンの審査は依然としてタイの住宅市場における大きな課題です。
しかし、住宅ローンの否決率には大幅な改善が見られています。
2025年末には約70%まで上昇していた住宅ローンの否決率が、2026年第1四半期には約45%まで低下しました。
背景には、財務状況の弱い住宅購入希望者がすでに市場から退出していることがあります。
Vichai氏は、現在の住宅ローン審査を「浄水フィルター」に例えています。
金融機関による厳格な審査によってリスクの高い住宅ローン申請者が市場から除かれた結果、現在市場に残っている購入希望者には、財務管理能力が高く、実際に住宅を必要としている層の割合が増えているという考えです。
「借り手の質は改善しています。現在も市場に残っている人は、総じて財務管理能力が高く、住宅購入の意思もより明確です」
とVichai氏は述べています。
デベロッパーにも戦略転換が必要
Vichai氏は、住宅市場が短期間で急速に回復することを期待して新規供給を増やすのではなく、実際の住宅需要に合わせた供給戦略へ転換する必要があると指摘しています。
今後数年間は、投機的な需要を前提とした開発プロジェクトよりも、
実際に自分で居住する購入者をターゲットとした物件
のほうが好調に推移すると予想されています。
具体的には、
- 実際の生活に適した間取り・住戸面積
- 競争力のある販売価格
- 完成済み、または完成間近の物件
といった条件を備えた住宅が、より購入者から選ばれやすくなるとみられています。
高齢化や世帯形成の鈍化も住宅市場を変える
さらに、人口動態の変化もタイの住宅需要を大きく変えつつあります。
新たに形成される世帯数の伸び悩みや人口の高齢化などにより、デベロッパーは今後、住宅の商品設計だけでなく、価格設定についても見直す必要があるとVichai氏は指摘しています。
今後のタイ住宅市場について、同氏は次のように述べています。
「住宅市場が過去のサイクルで見られたような急速な成長に戻る可能性は低いでしょう。次の市場局面をけん引するのは実需です。そして、中古住宅は多くの人が予想していた以上に大きな役割を果たすことになるでしょう」
→デベロッパーが販売価格を今より抑えるのは今後も難しいのかもしれません。感覚としてタイ人の一般層、ミドルクラスやロウワーミドル層が購入するのは300万バーツ迄のものが多いように思います。300万バーツ以下の単身者用の住宅は市場に多くありますがファミリー対応の住宅は郊外でもほぼないかと思われるので今後は少々郊外であっても広くて安いものが一般層に受けるかと思います。
今後のタイ不動産市場は「新築」から「実需・中古」へ
今回のデータから見えてくるのは、タイの住宅市場が単なる一時的な景気低迷を経験しているだけではなく、住宅購入者の価値観そのものが変化し、市場構造が転換しつつあるという点です。
特に2026年第1四半期に、中古住宅が所有権移転件数の67%を占めたことは注目すべき変化といえます。
これまでのように新築プロジェクトや将来的な値上がりを期待した投資需要だけで市場が成長するのではなく、今後は**「価格」「立地」「実際の住みやすさ」「住宅ローンを無理なく組めるか」といった実需に基づく判断**が、タイの住宅市場を左右する重要な要素となりそうです。
中古住宅市場の存在感がさらに高まれば、バンコクをはじめとするタイの不動産市場では、新築物件だけでなく、立地条件や管理状態の良い中古コンドミニアムの価値がこれまで以上に見直される可能性があります。
