不動産市場の低迷で明暗――デベロッパーが守りに入る一方、投資家には「数年に一度の買い場」
バンコクポストの記事と私見を交えて下記にご案内いたします。
不動産市場の低迷は、もはやすべての市場参加者に同じ結果をもたらしているわけではありません。
住宅需要の低迷と財務負担の増大を受け、住宅デベロッパーが事業拡大に慎重になる一方、不動産仲介会社やプライベート・エクイティ(PE)投資家は積極的な動きを見せています。彼らは現在の市場環境を、ここ数年で最も魅力的な投資機会の一つと捉えています。
こうした動きの違いは、単なるビジネスモデルの違いによるものではありません。タイの住宅市場で長引く低迷が、不動産業界全体の投資行動そのものを変化させていることを示しています。
デベロッパー、不動産仲介会社、PE投資家はいずれも同じ経済環境に直面していますが、それぞれが優先するものは大きく異なります。
デベロッパーがキャッシュフローの確保、完成在庫の販売、新規プロジェクトの延期を優先する一方、投資家は価格が下落した物件の中から、長期的な値上がりが期待できる資産を探しています。
その結果、今回の不動産サイクルは過去の低迷期とは異なる様相を呈しています。
市場参加者は単に需要の回復を待つのではなく、それぞれ異なる戦略を取っています。生き残りを最優先する企業がある一方、次の成長局面を見据えて積極的にポジションを取る企業や投資家も現れています。
→コロナ禍から市場の低迷が加速しました。コロナ当初はコロナ禍が明ければ市場は回復すると思っており、ニュース記事でも同様のことが書かれておりました。しかしながらコロナにより需要の実態、供給過多が暴かれるような形となり、家計債務過多も重なりコロナが明けて5年程経ちますが低迷が続いています。
この長引く低迷に対して「市場参加者は単に需要の回復を待つのではなく、それぞれ異なる戦略を取っています。生き残りを最優先する企業がある一方、次の成長局面を見据えて積極的にポジションを取る企業や投資家も現れています。」という言葉が印象的でした。もはや市場回復を待つのではなく現状に対してどのように対応するか、ここが攻め時と積極購入する者、将来も市況低迷の不安から傍観するしかない者、とにかく生き残りに懸ける者と、立場が違えば戦略が異なっております。2018年以前の戦略を持たずとも建てまくり、どこでも買うという時代からは大きく変わりました。
「拡大」から「守り」へ転換するデベロッパー
住宅デベロッパーにとって、現在の最優先課題は新規プロジェクトの立ち上げではなく、既存在庫の販売へと移っています。
タイのGDPが成長を続けているにもかかわらず、経済の先行きに対する不透明感が消費者心理を圧迫していることから、デベロッパー各社は以前にも増して慎重な姿勢を取るようになっています。
タイ証券取引所(SET)上場のSena Development(セナ・デベロップメント)のマネージングディレクター、Kessara Thanyalakpark氏は、GDPの表面的な成長率だけでは、消費者が実際に感じている景況感を把握できなくなっていると指摘します。
「経済は2~3%成長しているかもしれません。しかし、人々はその成長を実感していません」
「消費者が将来に自信を持てなければ、人生で最も大きな金銭的決断の一つである住宅購入を先送りすることになります」
同社の顧客はバンコク首都圏の中間所得層が中心ですが、融資環境に一定の改善が見られるにもかかわらず、依然として住宅ローンの審査に苦戦しているといいます。
家計債務が高い水準にあるため、住宅ローンの審査に通らない購入希望者は依然として多く、金融機関も厳格な融資審査基準を維持しています。
こうした状況から、デベロッパーは事業拡大を加速させるのではなく、在庫削減、キャッシュフローの確保、新規投資の慎重な管理を重視しています。
需要が弱い状態で新規プロジェクトを追加すれば、すでに競争の激しい市場にさらなる供給を加えるだけになってしまいます。
これは、デベロッパー各社が新規プロジェクトを相次いで立ち上げ、積極的に土地を取得していた過去の不動産サイクルからの大きな転換です。
特に資金調達コストが高止まりし、購入者が意思決定までに時間をかけるようになった現在、市場シェアの拡大と同じくらい、手元流動性を確保することが重要になっています。
新規開発よりも完成在庫の販売を優先
デベロッパーは新規投資についても、より慎重になっています。
幅広い価格帯で事業を拡大するのではなく、需要を予測しやすく、販売リスクを管理しやすいプロジェクトへ投資を集中させる企業が増えています。
SET上場のSupalai(スパライ)のマネージングディレクター、Tritecha Tangmatitham氏は、不動産業界全体が過去の市場サイクルと比べ、はるかに慎重になっていると指摘します。
「デベロッパーが新規プロジェクトの立ち上げを延期しているのは、販売開始後すぐに目標とする販売実績を達成できるとは、もはや考えられなくなっているからです」
「どの会社も在庫状況を以前より慎重に見るようになっています」
急速な事業拡大によって競争するのではなく、多くの企業がすでに完成し、自社のバランスシート上に残っている物件の販売を優先しています。
完成済み住宅を販売すれば、すぐに売上を計上して手元資金を増やすことができるだけでなく、売れ残り在庫を保有し続けることによる資金調達コストも削減できます。
Tritecha氏によると、市場は「供給主導型」から「需要主導型」へと変化しており、デベロッパーは消費者の実際の購買力をより正確に見極めながら、新規プロジェクトを投入する必要に迫られています。
市場の減速によって、各社は積極的な土地取得による市場シェア拡大よりも、事業運営の効率化を重視するようになりました。
こうした慎重姿勢により、過去1年間で新規プロジェクトの発売件数は大幅に減少しています。多くのデベロッパーが、市場環境が改善するまで新規発売を延期しています。
→日本と異なり地方都市に住宅開発の余地がないタイでは飽和状態に近いと思われるバンコク中心部から10キロ、20キロ程度の範囲内で開発を続けるしかないというのは先行きが無いことのように思われます。バンコク、バンコク近郊以外では外国人を購入対象としたリゾート地、パタヤやプーケットなどで住宅開発が行われておりますが外国人所有に規制を設けているのでノミニー問題が近年大きな問題となっております。
ノミニー問題で中国人や欧米人の所有者が摘発されておりますが、売った業者もノミニー購入のスキームを準備して売っていると思われるので所有者よりも購入元の業者に罰則が必要だと思います。
仲介会社には「1997年」を思わせる投資機会
一方、デベロッパーが守りの姿勢を強める中、不動産仲介会社は現在の市場を異なる視点から見ています。
不動産仲介会社Harrison(ハリソン)のプロジェクト投資部門シニア・バイスプレジデント、Sahatchai Kwancheun氏は、現金確保を迫られているデベロッパーが増えていることで、大規模な経済危機の時期以外ではめったに見られない投資機会が生まれていると指摘します。
「現在の市場は、いくつかの点で1997年を思い起こさせます」
「大量の完成在庫を抱え、さらに社債の償還を控えているデベロッパーの中には、複数の物件をまとめて購入する機関投資家に対して、大幅な値引き交渉に応じるところが増えています」
こうした取引は一般的に「バルク購入」または「ビッグロット購入」と呼ばれます。
デベロッパーにとっては手元資金を増やすことができる一方、仲介会社や投資家にとっては、市場価格を下回る価格で物件を取得できる機会となります。
キャッシュフロー確保への圧力が強まるにつれ、完成在庫の価格交渉に応じるデベロッパーが増えているとSahatchai氏は指摘します。
これは不動産市場が好調だった時期には、ほとんど見られなかった投資機会です。
特にデベロッパーが販売価格の最大化よりもキャッシュフローを優先するようになると、こうした投資機会の魅力はさらに高まります。
大幅値引きでも「まとめ売り」を選択
一部のデベロッパーは一般消費者への販売を待つのではなく、完成在庫をまとめて機関投資家へ売却することを選択するようになっています。
機関投資家への一括売却であれば、通常の小売販売ルートで一戸ずつ販売するよりも、完成在庫を短期間で現金化できます。
値引き幅は大きくなるものの、すぐに現金を確保することで財務体質を改善し、資金調達に伴う負担を軽減できます。
仲介会社にとっても、デベロッパーが在庫を抱えたまま一般消費者の需要回復を待つことができた時期と比較して、現在の市場にははるかに多くの投資案件が存在しています。
PE投資家は「値下がり」だけでなく将来の成長性を重視
プライベート・エクイティ投資家にとって、現在の投資機会は単なる値下がり物件の取得にとどまりません。
Central Group(セントラル・グループ)のPE投資部門であるCG Capital Coのマネージングディレクター、Nuttawat Kuvijitsuwan氏は、投資資金が地域をより慎重に選別するようになっていると指摘します。
「私たちは今でもタイの高級住宅市場に可能性があると考えています」
「重要なのは、今後どの地域が最も大きく成長するのかということです」
バンコクの一等地における住宅市場は安定しているものの、長期的な投資先としてはプーケットの方が高い可能性を持っていると同氏は見ています。
その背景には、外国人購入者からの継続的な需要に加え、観光産業に関連した人口流入があります。
CG Capitalはバンコクとプーケットの両方でブランドレジデンスへの投資を継続していますが、現時点ではプーケットの方がより魅力的な成長機会を提供しているとしています。
一般的な住宅市場とは異なり、タイ国内外の富裕層を対象とした高級住宅市場は、住宅ローン審査の厳格化による影響を比較的受けにくい傾向があります。これは、富裕層による不動産購入では現金による購入が多いためです。
「私たちは引き続きプーケットに魅力的な投資機会があると考えており、バンコクと並行して投資を続けていきます」
「現時点では、プーケットの方がより高い投資ポテンシャルを持っています」
→プーケットでコンドミニアムを賃貸運用目的で購入することはお勧めできません。年間を通して入居者を付けることは難しく、ハイシーズンとローシーズンで人の動きが異なります。ホテルやゲストハウスなど競合も多いです。デベロッパー目線では富裕層の移住先の住宅または別荘として高級コンドミニアムや高級ヴィラの建築を予定しているものと思われますが昨今問題となっている外国人所有の規制をどう回避するのかも慎重に検討されなければならない問題です。
二極化・細分化が進むタイ住宅市場
こうした各社の異なる戦略は、タイの住宅市場が大きく細分化していることを表しています。
一般消費者向け住宅を開発するデベロッパーは、タイ国内の購買力低下への対応を迫られています。
その一方で、仲介会社は資金繰りなどを背景に割安となった在庫物件を投資機会として捉え、PE投資家は引き続き有望な高級住宅エリアへ資金を投入しています。
これらは相反する市場見通しではなく、同じ不動産サイクルの中で、それぞれが置かれている立場の違いを反映したものです。
デベロッパーは建設費や借入金などの資金調達義務を抱えているため、キャッシュフローの確保と在庫削減を優先しなければなりません。
一方、投資家は魅力的な案件が出てきたタイミングを選び、選択的に資金を投入することができます。
つまり、不動産業界の中でもリスクの負担構造が異なります。
デベロッパーは建設コスト、資金調達、販売リスクを同時に負いますが、投資家には「いつ、どこに投資するか」を選択できる、より大きな自由があります。
タイ住宅市場は「成熟期」へ
こうした市場参加者の行動の違いは、タイの住宅市場がより成熟した段階へ移行しつつあることを示唆しています。
市場の低迷によって、「現金を確保する必要に迫られている企業」と「投資可能な資金を持つ企業・投資家」との格差が鮮明になっています。
デベロッパーが新規投資をより慎重に選別するようになる一方、十分な流動性を持つ投資家にとっては、過去の不動産上昇局面ではほとんど存在しなかった投資機会が生まれています。
財務基盤の強い企業は、今回の市場低迷を乗り越えた後、より強い競争力を持つ可能性があります。
一方、財務面で制約を抱えるデベロッパーは、手元流動性を改善するため、今後も保有資産の売却を続ける可能性があります。
市場が来年から回復するのか、それとも低迷がさらに長期化するのか以上に重要なのは、企業が新たな市場環境にどのように適応するかです。
これからの不動産市場で成功を左右するのは、積極的な事業拡大だけではありません。
財務規律、適切な資本配分、そして変化する購入者の行動に対応する能力が、これまで以上に重要になっています。
購入者にとって現在の市場環境は、物件の選択肢が広がり、価格交渉もしやすくなる状況を意味します。
投資家にとっては、不動産市場が急速に成長している時期にはめったに現れない投資機会が生まれています。
そしてデベロッパーにとって最大の課題は、もはや「どれだけ速く成長できるか」ではありません。
市場への信頼が回復するまで、いかに資本を守り、キャッシュフローを適切に管理できるか。
それが、現在のタイ不動産市場を生き抜くための重要なテーマとなっています。
